月経前不快気分障害Premenstrual Dysphoric Disorder(PMDD)
月経前不快気分障害の症状・原因
月経(生理)の3日~10日前から始まる、体や心に起こるさまざまな不快な症状を「月経前症候群(PMS)」と呼びます。月経が始まると症状が消失したり軽くなるもので、月経のある女性の約70~80%に月経前に何らかの症状を感じるとされています。
PMS(月経前症候群)の中でもとくに精神症状が強く現れ、日常生活や人間関係に影響が生じる病態のことをPMDD(月経前不快気分障害)といいます。落ち込みやイライラ、不安感といった精神症状が目立つようになり、月経開始とともに軽くなり、消失します。
米国精神医学会のDSM-5 という診断基準において、 PMDD は正式な病名として、うつ病と同列に並ぶようになりました。PMDD の方は月経がある女性の約5%程度に認めるといわれています。
月経周期に応じて症状が出現することから、原因としてエストロゲンおよびプロゲステロンなどの女性ホルモンの変動に伴う脳内神経伝達物質(セロトニンやGABAなど)のアンバランスが関与していると考えられています。

月経前不快気分障害の診断
DSM-5*による月経前不快気分症の診断基準
ほとんどの月経周期において月経開始前最終週に少なくとも5つの症状があり、月経開始数日以内に軽快し始め、月経終了後の週には最小限になるか消失する。
以下の1つまたはそれ以上の症状がある
- ( 1 ) 突然悲しくなったり、涙もろくなったりなど感情がひどく不安定になる
- ( 2 ) 些細なことでいらいらや怒りっぽくなり、対人的トラブルが多くなる
- ( 3 ) ひどくゆううつな気分、絶望感、自己批判的考えが強くなる
- ( 4 ) ひどい不安感、緊張感、および/あるいは気分の高まりや苛立ちがある
以下の1つ以上の症状があり、上記Bの症状と合わせて5つ以上の症状がある。
- ( 1 ) 通常の活動(仕事、学校、友人、趣味)に興味がなくなる
- ( 2 ) 集中困難
- ( 3 ) 倦怠感、疲労感、気力減退
- ( 4 ) 食欲の変化、過食、偏食
- ( 5 ) 過眠あるいは不眠
- ( 6 ) 圧倒される、あるいは制御不能という感じ
- ( 7 ) 他の身体症状、たとえば、乳房の圧痛または腫れ、関節痛または筋肉痛、膨らんでいる感覚、体重増加
症状は、臨床的に意味のある苦痛をもたらしたり、仕事、学校、通常の社会活動や他者との関係を妨げたりする。
この障害は、ほかの障害、たとばうつ病やパニック症、持続性抑うつ障害、またはパーソナリティ障害の単なる症状の増悪ではない(これらの障害はいずれも併存する可能性はあるが)。
基準Aは、2回以上の症状周期にわたり、前方視的に行われる毎日の評価により確認される(注:診断は、この確認に先立ち、暫定的に下されてもよい)。
*DSM-5:Diagnostic and Statistical
Manual of Mental Disorders
月経前不快気分障害の治療
先ずはその日の気分、活動、食事、睡眠、対人関係などについての日記をつけるなどして月経周期との関連性について理解を深めましょう。月経前にストレスのある状況を避けることも大切です。
「朝食を食べない」「ストレスで食行動が変わる」「過食」「脂質や糖質の多い、ファーストフード等のいわゆる欧米型の食事が多い」「運動習慣がない」といった生活習慣は、PMSの発症と関連があると言われています。バナナやカフェオレなど簡単なもので良いので朝食をとるようにしたり、ストレス解消に暴飲暴食をしがちな方は別の発散方法を考えてみるのも良いでしょう。運動は、軽く心拍数があがる程度の有酸素運動がよいとされていますので、ヨガなど取り組みやすいものから始めてみましょう。

精神症状の不安定さにより日常生活に大きな影響がある場合は、精神科や心療内科へ受診を検討しましょう。薬物療法としては、抗うつ薬の一種であるSSRI(選択的セロトニン再吸収阻害薬)が第一選択薬となります。SSRI を月経前の2週間だけ服用する方法と、連日服用する方法があり、症状の程度や起こり方により使い分けます。ただし周期が安定していない、症状が重い、うつ病などの合併が疑われる場合には、継続してSSRIを服用します。
その他、漢方薬を用いたり、月経痛に対する鎮痛剤など症状に対して対処療法を行うこともあります。
また産婦人科では、頭痛や乳房痛などの身体症状に対して低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤も治療の選択肢となります。いずれの場合も、効果および副作用についての十分な説明と薬物治療の同意を得て、内服治療を実施します。
女性の多くは毎周期、月経前の不快な症状を抱えながら過ごされています。特にPMDDの方は、日常生活に支障をきたすほどになっても、PMSはみんなにあるからと我慢されてしまう方も少なくありません。
「もしかしてPMDDかも?」と思ったら、当院へご相談ください。