老年期精神障害
老年期精神障害の症状・原因
誰もが年を重ねると、難聴や視力低下、体力の低下、疲れやすさなどの身体機能の低下が起こるのが自然です。また、その人を取り巻く状況も家族や友人・知人との離別や死別、退職や定年に伴う社会的孤立や経済状況の変化など、多種多様に変化し、変化に伴う心理的ストレスが重なると、下記のようなさまざまなメンタル不調が現れることがあります。
また、めまい、頭重感、口腔内異常感、動悸、胸部圧迫感、胃部不快感、便秘、下痢、頻尿、疼痛などの身体的不調を認めることもあり、その苦痛や心配から内科や整形外科、耳鼻科、泌尿器科、歯科などを受診しても症状が改善されない場合に、心療内科や精神科を勧められることもあります。そのような身体症状と、老年期精神障害(老年期うつ病や不安障害、妄想性障害など)が関係していることも少なくないのです。

このように老年期精神障害では、青年期や壮年期の場合のメンタル不調とは異なる点も多いことから、症状の背景に潜む心理・社会的要因および身体的な要因を十分考慮しながら、総合的な評価を行っていく必要があります。
よくみられる症状
- 以前より何かにつけ不安を感じるようになった
- ゆううつな気分、意欲がなくなった
- いらいらすることや怒りっぽくなった
- 眠れなくなった
- 周囲に対して被害的になっている
- 自分だけ特別な音や声が聞こえているようだ
- 自分だけ何か見えているようだ
- 物忘れがひどい
- 周囲から認知症ではないかと言われる
- 体の不調がすごく心配だ
老年期の精神障害各論
老年期の気分障害
初老期・老年期にみられるうつ病などの気分障害では、気分の落ち込みよりも不安や焦燥感が目立ち、心気的な訴えや身体的不調を訴えることが多い傾向にあります。また、空虚感や絶望感、自分は無用であるといった悲観的な感情が目立つこともあります。配偶者や友人の喪失、社会的役割の喪失などの喪失体験、経済的な不安、身体機能低下なども影響し、頭重感、めまい、便秘などの自律神経症状が前面にでることもあります。
また、自分が重い病気にかかっていると思い込む心気妄想、隣人から嫌がらせをされている等と思い込む被害妄想、お金がないと嘆く貧困妄想、自分は罪深い人だなどと思い込む罪業妄想を認めやすいのも特徴です。
さらに、老年期うつ病では、物覚えが悪くなり、何も考えられないなどと訴え、認知症と間違えられる仮性認知症もしばしばみられます。一方、認知症の初期症状では、明らかな物忘れなどの認知症症状が目立たないうちから気分の落ち込みや不安、意欲の低下が認められることがあります。このため、老年期うつ病と初期の認知症の鑑別はしばしば困難となります。高齢者のうつ状態が、その後の展開でアルツハイマー型認知症などの認知症に進展していくことも少なくありません。
老年期の神経症性障害
不安症(不安障害)や強迫症(強迫性障害)などの神経症性障害も、初老期・老年期にしばしばみられる疾患です。この場合は、従来の性格傾向の上に加齢が加わって、不安に対処する力や状況の変化に適切に対応する力が低下して、神経症を来すものと考えられます。
老年期の身体表現性障害
初老期・老年期には、痛みや違和感など様々な身体的訴えがみられます。これらは、加齢により実際にある身体症状に加えて、他への関心や興味が乏しくなり、自信もなくなることで、身体症状に過剰にこだわってしまうことにより生じます。
妄想性障害
初老期・老年期は、種々の妄想を生じやすい年代です。例えば、隣近所の人たちが自分に嫌がらせをしているなどの被害妄想がみられます。この場合は、特定の対象に対するものが多く、アルツハイマー型認知症のもの盗られ妄想と異なり、体系化しやすく、やがて生活に支障を来します。また、配偶者に対して、他の異性と浮気をしていると思い込む嫉妬妄想もしばしばみられます。妄想性障害が、その後アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などの認知症に進行することもあります。
老年期の不眠症
加齢による睡眠覚醒リズムの障害や、日中の仕事がなくなるなど生活形態の変化も原因となります。一般的に用いられるベンゾジアゼピン系の不眠症治療薬には筋弛緩作用があるため、高齢者が服用するとふらつきや転倒の危険があります。また、眠気が持ち越されることで翌日の理解力や判断力の低下にもつながりやすく、夜間せんもうといって意識がもうろうとして夢と現実の区別がつかなくなってしまう状態が起こりやすいことから、できる限り使用を避けます。まずは睡眠環境を整え(不眠症参照)、それでも眠れなくてお困りの場合には、睡眠と覚醒のリズムを整えるタイプの不眠症治療薬(メラトニン作動薬、オレキシン受容体拮抗薬)を検討することが多いです。希望に応じて漢方薬を用いることもあります。
老年期精神障害の診断
うつ病や不安障害等の各診断基準に沿って診断を検討しますが、身体疾患やその治療薬が原因となって精神症状を認めることもあり、血液検査の他、他院と連携して脳CT検査や脳波検査を受けていただくこともあります。
老年期精神障害の治療
休息や環境調整のほか、必要に応じて抗うつ薬や少量の非定型抗精神病薬等の薬物治療を検討することがあります。一方で、老年期を迎えると、さまざまな身体疾患を持つ方も多く、数種類の薬を普段から服用されている方も多いと思います。当院では、お一人お一人のお困りの症状や病状に合わせて、それぞれの薬の相互作用にも注意しながら、必要最小限で安全かつシンプルな薬物療法をご提案させていただきます。また、必要な介護サービスや障害・福祉サービスについてもご案内が可能です。
